むろくんこそが、素敵でワガママ

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「読む」以外のことは何も考えないでください。

やはり、我が家はA君のチェックポイント

 

 人生はゲームじゃない、人生がゲームなら良かったのに。なんて、ない物をねだったことは誰にでもあるだろう。

 しかし、人生はゲームだ。いつどこにいたって、人はチェックポイントを必要とします。それまでの疲れを癒やし、記憶を整理し、以降の計画を立て準備を整えるための場所。それがチェックポイント。

 

 

 

 

 やはり、我が家はA君のチェックポイントになるそうで。

 

 

 

 

 

 

 西暦2019年12月18日水曜日23時頃、A君は、東北から関東に遠征してきた割には少ない荷物量で、俺の家に足を踏み入れた。

 流石東北住みといったところで、服装は意外と軽装。コート等の防寒着は特に着ておらず、厚手のスウェットで寒さを乗り越えている印象が見て取れました。幸いその日の夜は暖かかったというのもあるだろう。

 

 

 

 

 

 幕張でのライブを終えて我が家=チェックポイントに身を寄せたA君の手には、まるでゴミ袋のような荷物が1つ。中にはライブの物販で買ったグッズが2,3個入っていて、家に上がった後も彼はそれを満足そうに見つめ、一つ一つ丁寧に商品を俺にプレゼンテーションしてくれた。涙が出るほど嬉しかった。

 

 

 

 その日は既に23時を回っていたが、気にせずゲームをした。スマブラをやったが思ったよりもすぐ飽きてしまったのが、少し寂しかったのを覚えてる。

 

 

 

 

 結局3時くらいに就寝。

 ロフトの上から聞いたA君の寝言は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

 「スリーポイント決めなきゃ」「菊の花が…」。一体どんな夢を見ていたのだろう。夢のある男だ。

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は10時半から大学の講義があり、A君は東京観光に行ってくる…ということだった。

 

 

 

 眠い目を擦りながら起き、A君に今日の予定を聞いてみた。彼は、東京観光に行くということだけを決めていて、具体的にどこに向かうかはその瞬間まで決めていなかったらしいが、俺に予定を聞かれて、「聖地巡りをしてくる」とその場で即決めし、「よし決めた」と己を鼓舞していた。男のロマンがそこにはあった。

 

 

 

 

 A君は俺よりも15分ほど早めに家を出た。夜まで帰ってこないつもりだったらしい。

 

 

 

 

 

 俺はその後、4限5限と授業を終えて、とっても煮え切らない身体で帰宅。そして就寝。

 19時頃に家に着く予定だったA君が、20時くらいに家に着くことになりそうとLINEを送ってきたことに気付いたのは、目が覚めた19時50分頃。ギリギリセーフだ。

 

 そっと胸を撫で下ろし、何をするでもなくA君の帰りを待った。宅配便が来るからなかなかウンコにいけない…あの感じに似ていた。

 

 

 

 

 

 

 A君帰宅。初日の来訪と変わりない満足した様子に、俺は胸がいっぱいになった。 

 

 

 

 俺は翌日は全休だったのだが、A君はインターンシップに参加する予定があった。A君は2時頃に眠気を覚え、その場で眠っていたが、俺はそんなことは歯牙にもかけず、バリバリにフォートナイトをプレイしていた。勿論、イヤホンはしていたので安心して欲しい。

 

 

 3時頃になってゲームをやめ俺も就寝。翌日は9時頃に起床した。

 

 

 

 

 

 

 

 A君はインターンで東京に行くことになっていたので、その日の夜は東京でご飯を食べようということになっていた。東京に住むE君も誘い、三人で集まることになった。

 高校時代、ビジュアルとエロティシズムを担当した伝説の三人だ。もっと大々的に告知していれば、東京はファンでごった返していたかも知れない。

 

 

 

 

 俺はその日の18時から髪を切る予定が入っていたため、結局20時頃に行くように店には予約を取ってあった。ちばチャンという、チェーン店になっているもつ鍋屋さんで、もつ鍋、特盛り唐揚げ、特盛りポテト、サラダ、飲み放題などがついて2980円という、お金のない大学生御用達の超庶民派のお店だ。

 

 

 

 

 なんだかんだ、俺が店に着いたのは20時半頃。バスと電車の関係で予定より大幅に遅れての到着となった。

 しかし、既に店に来て席に座っていた二人は怒りを見せる様子がないどころか、白い歯を剥き出しにした笑みで俺を迎い入れてくれた。

 

 

 E君とはちょいちょい会っているし、A君ともちょいちょいゲームなんかして会話はしているので、俺自身は久々という感じはなかった。だが、A君とE君は約1年ぶりのご対面であったため、積もる話もあったのか、俺が遅れて到着した頃には、既に何かの話で盛り上がっていた。

 ああいうとき、遅れてきた人間はどうするのが正解なのだろうか。今回の件で言えば、三人とも気心の知れた間柄なので、そんな難しいことは考えずに本能で話し合うことはできるが、そうでないケースの場合はどうすればいいのだろう。

 遅れてきた人間が後から話に参加するあの難しさには今後も苦しめられるだろう。「何の話してんの?」と割って入るのも図々しいし、だからといって黙って話を聞いている風を装うのも寂しいものがある。

 

 

 今回の場合は、何となく話を盗み聞きしながら、適当な所で「わかる」などと相づちを打って、自然に会話に馴染むことに成功した。タイミングも完璧だったように思う。カラオケ採点で言えば、虹色のキラキラが出るくらいには完璧だった。

 

 

 

 店の様子だが、大学生が多かった。というか、ほぼ全員大学生だ。もしくは、就職したての社会人。もうこれはほぼ大学生だ。スーツを着た大学生だ。

 

 

 

 

 

 

 座敷に案内されたのだが、周りに座っていた二十数名の女の子達は、1つの団体客で、恐らくサークルかなんかの集まりだろう。

 その奇声たるや猿のようだ。そんな中、我々三人はシックに箸を進め、不思議な優越感に浸っていた。

 

 

 

 あの店に、人間はいなかった。それはもう、動物園だ。Zoo。

 

 

 

 

 

 30分ほど経つと、周囲の団体が一斉に捌けた。急に訪れた静寂に少し狼狽える一面、怒りに似た寂しさを覚える一面もあったが、唇を噛みしめてそれらを乗り越え、再び談義に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 22時過ぎになって、我々は解散した。名残惜しさを押し殺し、A君と共に我が家への帰路に立った。

 奇跡の見極めで、始発の電車に乗ることが出来たため、金曜日の23時頃の電車に座って乗ることが出来た。この見極めの鋭さが、人気の理由だ。

 

 

 

 

 

 

 その日は家に帰宅して、すぐに眠ってしまった。若干お酒が入っていたことと、それまであんまり満足に眠れていなかったこととがいい感じでドッキングしたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝は9時頃に起床。A君との別れの時は近い。

 

 

 

 

 A君はその日、地元に帰って免許の更新をしなければならなかった。

 

 ダラダラしながら11時頃に、A君が思い立ったように立ち上がり、帰り支度を始めた。

 

 

 

 

 

 毎年、年末は地元でA君とカラオケに行くのが通例ではあったが、今年の年末は俺自身いつもと違う予定が入っていたということもあり、地元で会うという予定はなかった。

 

 

 

 

 

 つまり、これが今年最後のA君との対面になる。

 

 

 

 

 「良いお年を」などと柄にもないことをお互いに言い合いながら、A君は物販のグッズを片手に我が家を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が家が誰かのチェックポイントになることが、俺は嬉しい。自分は存在しているだけで、誰かのチェックポイントになれるのだ。

 

 その人の記憶、疲れ、思い出、感情、荷物、それらを一手に引き受け、どうぞ休んでくださいと言わんばかりにもてなす。

 

 

 

 

 それが俺の生きる喜び。

 

 

 

 

 

 我が家は、A君のチェックポイント。

 そして、俺にとってのチェックポイントでもあるのかも知れない。