むろくんこそが、素敵でワガママ

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「読む」以外のことは何も考えないでください。

新幹線の中で120分のAVを全編見終えるチャレンジやっても良きかな?【エロ注意】

 

 

 アダルトビデオ。

 それは、えっちなお姉さんがエッチなシチュエーションでエッチな行為を演じる様子を録画した荒唐無稽の産物であり、絵画・音楽に並ぶ世界三大芸術に数えられていない。

 

 

 男であれば誰しも一度は目にしたことがある。太陽と同じだ。

 

 通常、「AV」と省略され、このAVに出演する女性をAV女優、男性をAV男優と呼ぶ。女性向けのAVもあるが、一般的にアダルトビデオ・AVと言えば男性向けのエッチなビデオの事を指すと考えて問題はないだろう。

 

 

 

 AVの説明を一からする必要もないだろうが、ここでは敢えて説明させて頂きたい。それは、ここで前提を再確認しておくことで、これから書き記す新年一発目の一大チャレンジの意義を打ち立てるためだ。

 

 

 

 

 男性の場合であれば、早い人で小学校高学年、遅くとも高校に入るまでには一度はAVに触れる機会があるだろう。それがAVという産物であるとは知らなくとも、エッチな動画を目にすることは絶対にあるはずだ。

 それに、今はスマホが普及している。俺が小学生の頃はスマホは今ほど多く普及はしてなかった。だからインターネットに触れる機会も無く、当然AVに触れる機会もなかった。しかし今は違う。小学生でもスマホを持っている時代だ。もしかすると、今時の小学生は俺が知るよりも早い段階から精通をかましているのかもしれない。

 

 

 

 中学生になると、スマホを持ち始める人がチラホラ出てきていた。俺はスマホではなくパソコンを使っていた。パソコンを普段から使っている中学生は、当時ではマイノリティだった。だが、俺はパソコンの利便性に惚れ込み、周囲よりも少し早く、インターネットという世界に潜り込んだ。

 

 

 最初にエロ動画なるものを見たのは、中学2年生の頃だったと思う。きっかけは覚えていないが、自宅のパソコンで好奇心を剥き出しにして動画を漁ったものだ。当時は見るだけだった。「見る」以上の行為は果たせないだろうと考えていたからだ。

 

 

 

 それから高校に進学し、自分専用のスマホを手に入れた。更に様々な知見を周囲から吸収し、所謂「性」に対して興味関心をより抱くようになり、いつの日からかAVというものを神聖化し、日々鍛練を重ね、見聞を広め、時に恥をかきながら今に至る。

 

 

 

 

 

 そもそも、男子が「性」に目覚めるパターンは割と限られている。勿論、妙に精通が早い逸材や、歪んだ性癖からスタートしてしまう異端児もいないわけではないが、それらは切に少数派だ。切に。

 

 

 俺の場合は、こうだ。

 

 

 

 まず、小学生低学年の頃、自宅にあった週刊誌かなんかの最後の方のページに掲載された美しい女性のヌード写真を見たことがはじまりだった。あの頃は何事にも我武者羅だったわけだが、奇跡と呼ぶに相応しい日常の中で、俺は「性」を無意識に認識した。

 

 

 その後、母が好きで買っていた週刊少年ジャンプに掲載されていた「Toloveる」「エム×ゼロ」などで、「性」の柔軟性を知った。こんなこともできるだ…。あの時の俺は、誰よりも勤勉だった。

 

 

 その少し後、ニンテンドーDSiという当時にしては画期的なゲーム機でインターネットに接続できることを知り、生まれて初めてインターネットの世界に潜り込んだ。

 当然動画など見ることはできなかったが、俺はそこで、「画像」を見漁った。当然アクセスできるサイトも限られてくるし、容量的に表示できる画像の種類も決まってくる。数々の制約の中で、俺は「自らの性に自らの手で従う」ということを初めて成し遂げた。

 

 

 

 

 中学生になって初めてエロ動画を見てからは、俺の進化は早かった。当時俺が見ていたエロ動画というのは、所謂エロ動画サイトに掲載されている動画で、その殆ど全てがAVの切り抜きであった。今でこそ、AVの切り抜きにお世話になることは少なくなったが、当時の俺はやはり我武者羅だった。遮二無二だった。

 

 

 

 

 中学、高校と成長するにつれ、自らも様々な性体験を重ねていく中で、俺の「性」は完成しつつあった。今でこそ完成したと言ってしまうのはあまりにも惜しいが、それでも固まりつつあるのは事実だろう。

 

 

 

 FANZAなどで、高画質AVをフルで購入するという愚行をやってのけたのはごく最近、ここ3,4年の話である。「性」に従うことで、経済を回す。あまりに尊いこの行為に陶酔している。時に逡巡し購入を踏みとどまることもあるが、それもまた一興。

 

 

 

 

 

 

 

 以上のような過程で、俺は「性」と向き合ってきた。決して劇的な過程ではないが、俺にとってはどの期間のどの出来事も外してはならない。どれか一つを抜いてしまえば、ひとたび俺の「性」は音を立てて腐り果てるだろう。

 

 

 

 そうして、御年21歳になったこの俺は、新たな「性」の試みとして、このたび、一大チャレンジに挑戦することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去にFANZAで購入した120分のAVを、新幹線の中で全編見終えるというチャレンジだ。

 

 

 

 

 

 

 

 目的地に到着するまでにあらかた見終えることが出来ればチャレンジ成功。途中で見るのをやめてしまったり、他の乗客にAVを見ていることがバレてしまったりすれば、チャレンジは失敗。

 

 

 

 

 

 

 

 このS級チャレンジに踏み込んだきっかけは、特にない。敢えて言うなら、「2020年だから」だろう。何を言っているのか分からねえと思うが、俺も何を言っているのか分からねえ。

 

 1月4日の今日、俺は始発の新幹線で帰ることを決めていた。6時半頃の新幹線に乗るため、5時に起きた。起床した時点では、まさか新幹線でAVを見るなんて夢にも思っていなかった。

 

 

 そして、発車30分くらい前に駅に着いた。この時、俺の中で何かが動いた。早朝の冷たい風が、痛いくらいに囁いた。

 

 

 

 「新幹線でAVを見ろ」

 

 

 

 新年の風は確かにそう言った。2020年は、俺個人にとっても、日本にとっても、世界にとっても節目の年となる。この機を逃す選択肢はない。俺は、風に頷いた。

 

 

 寒くなどなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線に乗り込み、当日買った切符を見ながら指定席を探した。帰省ラッシュで人は多いし、みどりの窓口で切符を買ったため、席を選ぶことは出来なかった。だが、始発ということもあって、窓側か通路側を選択する余地はあった。俺はよがる思いで窓側の席を選択。

 

 

 言わずもがな、このチャレンジは座席が重要になってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が普段おみくじを引かない理由は、どうせ引いたところで「大吉」が出るだろうと驕っているからだ。驕り高ぶっているからだ。

 人は俺を笑うが、やはり俺は「大吉」だった。

 

 

 

 

 

 3列シートの、窓側。

 

 

 

 

 

 

 

 勝った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線の通路の狭さは気にならなかった。俺は大手を振って通路を左折し、8-A席に座った。

 

 

 

 2列席だと、隣に人が乗ってくる危険性があった。だが3列席であれば、誰かが座ってきたとしても間を一個空けて座ることになる。知らないヤツのすぐ隣で終始AVに従事する可能性を危惧していたが杞憂に終わったようだ。帰省ラッシュだから真ん中に人が座ってくる可能性もあったが、始発ということもあり席は結構空いていたから、その心配もいらないだろうとすぐに分かった。

 

 

 

 いくらなんでも、幸運だった。大吉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 座り込んで、母親に「新幹線に問題なく乗れたこと」をLINEで報告し、その後すぐにイヤホンをスマホに挿した。

 

 

 

 

 俺の席は3列席の窓側。隣二つは空席だったが、俺のすぐ後に乗ってきたメガネをかけた30代くらいの男が、3列席の通路側に座った。少し危険ではあるが、真ん中が空いているためだいぶ距離はあるし、角度的にもスマホの画面を覗かれることはまずないだろう。大丈夫だ、問題ない。

 

 

 

 問題は後ろだ。後ろには、20代後半から30代前半くらいの女性二人組が、俺と同じタイミングで座り込んだ。やけに話し込んでいた。恐らくお友達同士だろう。

 

 

 大丈夫。後ろからは、シートで隠れてスマホ画面を見ることなどできない。一つ気をつけるとするなら女性が立ち上がった時だが、乗り込んだ直後と、降りる直前以外で立ち上がることはまずないだろう。トイレに立つという可能性もあったが、彼女らの尿道と肛門括約筋の活躍に期待するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 新幹線がゆっくりと前進すると同時に、俺はDMM動画のアプリを開き、適当に過去に購入したAVをタップした。

 

 

 作品名や女優名は敢えて伏せるが、よくある家庭教師モノだ。家庭教師役のAV女優が、故意に胸チラをし、そこに視線を送りたじろぐキモい学生役の男優となんやかんやでセックスをするというオカルトな内容。買ったのは2年くらい前だろう。今見ても高揚できるだろうか?少しの不安があったが、2年で性癖はそう変わらない。過去の性欲に身を委ねることになるのは少し癪だったが、そこは涙を呑んだ。

 

 

 

 

 作品は119分。2時間弱だ。

 目的地までは1時間半弱だから、最初から最後まで完全に見尽くすことは物理的にできないが、冒頭や最後などは、特にエロ要素のない茶番であることが多いから、そこは飛ばしても問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 さあ、チャレンジのスタートだ。

 

 

 

 家庭教師が家にやってきて生徒とご対面する冒頭5分くらいは飛ばし、早速胸チラをかますシーンから。

 

 

 

 AVを最初から最後までキッチリ順を追って見る男は殆どいないと思う。俺も、こんなにちゃんとAVを見たのは初めてだった。

 一応多少のストーリー性はあるらしい。

 

 

 

 ふと、俺はリクライニングを倒していないことに気付いた。冷静を装ってはいたが、どこかで動揺していたのかも知れない。

 新幹線が走り出したことで訪れた不思議な安心感に身を任せ、俺はAVを一時停止することなく、リクライニングを少しだけ倒した。

 

 

 

 

 

 

 誤算だった。

 

 

 

 

 

 

 察しがよろしい人であればもう気付いているのではないだろうか。

 俺の席は3列席。隣は空席だ。つまり、俺がリクライニングを倒すと、隣の背もたれと俺の背もたれの間に鋭角の隙間が生まれ、俺の右斜め後ろ(俺の後ろの3列席の真ん中の席)に座っている女に、ガッツリとスマホの画面を見られてしまうのだ。

 

 

 

 

 俺はすぐにスマホを伏せた。

 あ、アブねえ。ギリギリだ……

 

 

 ギリギリ…………セーフだ。

 

 

 

 

 

 女性は自分のスマホの画面に釘付けだった。

 だが、リクライニングを倒したままでは、いずれ女性にスマホの画面を覗かれてしまう可能性がある。そうなればチャレンジ失敗だ。俺は2020年のうちに死ぬことになるだろう。

 

 

 

 

 身体の向きや位置、スマホの角度など色々計算したのだが、どう頑張っても女性の目線は俺のスマホの画面を捉えてしまう。

 このクソアマが…!

 

 

 何も知らず呑気にリクライニングを倒している右隣の男を殺したくなったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 致し方ない。

 

 俺はリクライニングを一度元に戻し、ギリギリ隙間から見えるか見えないかくらいの位置で止めた。角度で言うと、30度以下だろう。正直全然リラクゼーションできていなかったが、直立でAVを見るよりはマシだ。

 後ろの女狐二匹に呪詛を吐きながら、俺はAV視聴を再開する。

 

 

 

 

 

 その後は、滞りなくAVを見ていることが出来た。こういうのは最初を乗り越えてしまえば後は楽なもんだ。右の男も終始眠っていたようだし、真ん中の席に誰かが座ってくるということもなかった。

 

 

 

 

 

 

 かれこれ1時間ほどが経過した。AVは着々とシーンを進めてゆく。

 

 

 胸チラから、「○○君って、エッチなんだね」のくだり、そこからしごきに入り、シーンは変わって、寝ている家庭教師に男子生徒が悪戯をするシーン。更に本番を交わすシーンなど、合計で4つほどのシーンを乗り越えることが出来た。

 

 

 目的地に着く時間も考慮すれば、AVを見ていられるのもあと最大で2,30分だ。全て見終えることはできないが、このままAVを見ながら目的地に辿り着くことが出来れば、チャレンジ成功と言って問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 俺は勝ちを確信していた。この後は、目的地まで停車はしない。つまり、新たに人が乗ってくることもない。

 警戒すべきは後ろの女狐二匹だが、最初に乗り込んできたときとは打って変わって水を打ったように静かだ。寝ているのか、死んでいるのか。どちらでも良かった。

 

 落ち着いてAVを見れていたわけではない。終始あたりを警戒していたし、正直内容に集中はできていなかった。だが、それでもいい。

 スマホから目を離さず、AVを再生し続けることが重要なのだ。2020年は、そうやって色づいていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艶めかしい女性の表情を覆い隠すかのように、画面上部に通知がポップアップした。

 

 

 

 

 

 

 

 母からだった。

 

 

 

 

 新幹線に乗り込んだときに送ったLINEの返事だった。約1時間越しの返信であったため、送ったこと自体を既に忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 我に返った。

 

 

 

 

 何も考えずに、俺はホームボタンを押して、AVを閉じていた。糸が切れたように、女優の喘ぎ声も途切れ、見慣れたスマホのホーム画面が、俺のメガネを照らした。

 

 

 

 

 魂の抜かれたような顔をしていたかも知れない。鏡がなければ自分の表情など確認できないが、恐らくそんな、生気を伴ったような瑞々しい顔はしていなかっただろう。しているはずもない。

 

 

 

 

 母からのLINEの内容は、「了解です。これから大変でしょうが、頑張りましょう」

といった、簡潔だが愛を感じるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、なんて愚かなんだろう。

 

 

 

 2020という節目にかこつけて、自らに無益な試練を課し、一人気持ちを高揚させた。偶然そばに乗り合わせただけの赤の他人を卑下し、挙げ句女狐呼ばわり。

 

 

 

 女性を狐呼ばわりする資格など、俺にはなかった。俺は猿だ。天狗だ。欲と驕りで形作られた、ボロボロの醜いモンスターだ。撃ち殺されても文句は言えない。

 

 

 

 

 AVは家で見るものだ。今となってはそう思う。そうとしか思えない。

 おおかた、バレるかバレないかの状況下でAVを見るスリルを感じようとしたのだろう。そういう自分を殊勝だと誤認し、何も省みずにチャレンジに及んだのだろう。

 

 

 

 

 ふざけるな、と俺は言う。今は言う。

 何がスリルだ。何が殊勝だ。何がチャレンジだ。

 マイケルジャクソンに謝れ。安倍首相に謝れ。進研ゼミ小学講座に謝れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの20分は、果てしなく永かった。永遠だった。永遠だった。永遠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 車窓から見える雲の流れが異様に速かったのを覚えている。朝焼けは眩しかった。この薄い雲と朝焼けのコンビネーションには心底驚いた。打ち合わせなしでこのコントラストを織り成してるのだとしたら、大空というものは天才かもしれない。

 

 

 

 大空はこんなに壮大で忙しないのに、俺はなんだ?なんなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 スマホを握る手が徐々に冷えていくのが分かった。屹立していたであろう内なる熱の塊が、情け容赦なく崩れていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地に着き新幹線を降りた俺を、朝焼けは、それはそれは穏やかに迎え入れてくれた。

 

 

 

 涙は一つも落ちなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年もよろしくお願いします。

 

 

 

 それしか、言葉が見つからない。

 

 

 

 俺は大凶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、途轍もなく寒かった。