『夜のピクニック』 電子書籍レビュー②
栄えある電子書籍第2弾は『夜のピクニック』です。知っている方も多いんじゃないでしょうか。俺もタイトルは存じ上げておりました。
作者は恩田陸、55歳の女性です。
『蜂蜜と遠雷』という本で直木賞を受賞されています。近いうちに読みたいですね。何でもこの人、「ノスタルジアの魔術師」の異名を持つそうで、「ノスタルジー」が売りみたいんです。
確かに「夜のピクニック」にも、ノスタルジックな感じがあった気がします。
ジャンルは特に決まっておらず、色んなジャンルの本を書いてやがります。
「夜のピクニック」、初版は2004年。もう15年も前の作品なんですね。
あらすじを簡単に。
なんとか高校(名前忘れた)では毎年「歩行祭」と呼ばれる行事が開催されます。朝に学校を出発して、翌日朝まで歩き続けてまた学校に戻ってくるという狂った行事です。今だったら問題になりそうですね。
主人公の融と貴子は、同じクラスの異母きょうだい。互いに距離を置いて生活をしています。高校生活最後の行事である「歩行祭」に、二人はそれぞれの思いで参加することになります。
「ただ歩くだけ」の行事の中で、様々な人間模様が描かれる様が面白いです。
面白かったですが、個人的には少し物足りない感じはありました。ただ歩いているだけの描写の中での人間模様がこんなに面白く書けるのか、と感心した部分もあります。が、なんというか盛り上がる部分でいまいち盛り上がれなかった感じがします。個人的に、物足りなさを感じた原因でしょうね。
作品の中で起こる出来事は、はっきり言ってしょうもないことばかりです。高校生が主役ですからね。
ただ、その中で描かれる心象が印象的。すごく読みやすいし、難しい表現を使っているわけでもないんですが、印象に残りますね。
特に貴子の心象描写は、一人称と三人称がごちゃ混ぜになったりしているのが印象的でした。こんなのありなんだ…と、ありありと思い知らされました。
あとは、作中に出てくるクラスメイトが魅力的です。
融の親友の忍であったり、貴子の親友の美和子であったり杏奈であったり…。
まさに人間模様といったところ、相関図を書きたくなっちゃいました。
「ノスタルジック」ということで言うと、確かに「歩行祭」に馳せるそれぞれの思いだったりとか、それに沿って進む時間経過の描写だったりとかには、若干の哀愁を感じました。
ただ、「魔術師」と言われるほどのものではなかったですね。恐らく、他の作品にはより「ノスタルジック」がにじみ出ているのかも知れませんね。
高校生が学生生活最後の行事に参加しているという設定なので、高校生を経てきた俺としてはこみ上げてくるものがなかったわけではありません。二度と戻らない時間の切なさを思い知らされます。
行事を通して己の生き方や他人の生き方を考えさせられるんですね。歩行祭というただ歩くだけのしょうもない行事だからこそ、その人間模様がより繊細に浮かび上がるんだと思います。たぶん、作者があえて歩行祭という行事を選んだ理由でしょう。
以上を踏まえて、
おすすめ度は☆3.5ってところです。
基本的に、壮大な伏線回収とかどんでん返しみたいなのを期待している人にはおすすめしませんね。
ただ、何気ない出来事の中での人間模様とか心象描写に興味がある人は、読んでみると面白いかもしれません。キャラクターも魅力的ですしね。
よくある青春ものと言ってしまえばその通りかも知れませんね。
恩田陸さんは「夜のピクニック」以外にも素晴らしい作品が目白押しらしいので、今後もチェックしておきたいと考えています。
では、このへんで。